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2018年03月07日

就職相談から見える学生のマインド

~静大発“ふじのくに”創生シンポジウムにて~


去る3月2日、静大発“ふじのくに”創生シンポジウム『学生の地元就業・定着支援の方策を探る』のプログラムの中で、基調報告の機会をいただいた。当日、お話しした内容を備忘録替わりにまとめてみた。
※基調報告のタイトル『就職相談から見える学生のマインド』は、静岡大学の就職相談業務に携わっていることから付けられたものである。

■ 自己紹介~起業のきっかけ
私がキャリア・クリエイトを興したのは、2002年2月。前職で再就職支援事業に携わる中、リストラの対象となった上場企業の社員が「こんなハズじゃなかった…」と肩を落とすのを見て、「次世代の若者にこんな思いをさせちゃいけない!」と思ったことがキッカケだ。
起業した年の7月、厚労省の諮問機関である「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書が公表された。以下がその前文だ。

経済社会環境が急激に変化し続け、予測のつかない不透明な時代となり、労働者、個人は一回限りの職業人生を、他人任せにして、大過なく過ごせる状況ではなくなってきた。
すなわち、自分の人生を、どう構想し実行していくか、また、現在の変化にどう対応すべきか、各人自ら答えを出さなければならない状況となってきている。


この報告書が発表される5年程前から労働市場の現場で再就職支援事業に携わっていた私にとっては、「何をいまさら…」と感じさせる内容だったが、厚労省発の報告であることに日本の労働政策の大きな転換点だと感じたことを覚えている。また、ひねくれ者の私は「各人自ら答えを出さなければならない…」という表現に、「自分の人生に自らが答えを出すのは当たり前の話!?そもそも、今までがおかしかったんじゃない?!」とも感じた。
現在の日本は、この報告書が発表された当時と比べ、より自律を求める社会になっていると考えていいだろう。この報告書は、私が物事の判断をする上での“前提”だ。


■ 就職相談業務を通して感じること
現在、大学での就職相談業務に携わる中、非常に多い相談が「私のES添削してください」「模擬面接をお願いします」。就職相談の看板を掲げているのだから、当然のニーズではあるのだが、アドバイスする私として困ってしまうケースは少なくない。
ESについては、何を伝えたくて書いた書類なのかが見えてこない。圧倒的に多いのが『過去アピールの書類』、アピールすること自体は何ら問題ないのだが、「過去をアピールして、相手に何を伝えたいのか?」が見えてこない。
面接について言えば、「コレを聴かれたら、何て答えればいいですか?」という質問が多い。質問者の意図と自身の思惑によって答えは違ってくるはずなのだが、自身の思惑自体が希薄なケースが圧倒的に多い。
ESや面接の指導を通して、「多くの学生は“内定の獲得”のみを目的としているのかも…」と感じる。漠然と「大きな会社・安定した会社の内定を得たい」「地元で就職したい」、はたまた「出来れば社会に出たくない」「人並の生活が出来れば多くは望んでない」等は考えているが、自分の将来を俯瞰するという視点は持てていない(私もそうだった様に…汗)。
アドバイスする側も、「“内定を得た後のコトを考えるキッカケを与える”ことを意識する必要があるよな~」と感じる。


■ ある高校教師からの手紙
とはいえ、学生たちが「内定を得るコトだけを目的にする」のも無理はない。何年か前、高校の進路指導の先生たちに”社会経済環境の変化とキャリアの関連”についてお話しさせていただく機会があり、その時話を聴いてくださったある先生からご丁寧な手紙をいただいた。手紙の内容は、「学生は、現状に満足している」「高度成長期ならいざ知らず、何でもそろっているこの時代に、彼らに何を目指せと言えばいいのでしょう…」といったモノだった。
「確かにそうだよな~」と思った。ただ、現実を考えると「現状を維持するだけでもかなりの努力が必要なんじゃないの?!」とも思う。経済的な側面から考えたら「日本の一人あたりのGDPは、先進諸国の中で万年下位に低迷」している。このまま、少子高齢化が進んでいけばこの状況はますます悪化していくハズだ。日本の社会では、「付加価値が上がらなければ、収入も増えないし経済的に豊かな生活はおくれない」という当たり前の事実が共有されていないコトが問題だ。
実は、目指すものなく生きてきたのは、学生だけじゃない。かつて再就職支援の現場でサポートしたビジネスマンは、「こんなハズじゃなかった(じゃ~、どんなハズだったんだろう?)」と言っていた。もうすぐ還暦を迎える私の同輩の中にも、「もう仕事したくない!!」と定年を楽しみにしている輩は少なくない。
多くの日本人が、「”知らない誰かのために人生を歩んできた”のかもしれない?!」などと、ふと考えてしまう。


■ シューカツとは…
就活(大学生活)とは、“自身の人生をどう生きるのかを考える機会”なんだと思う。キーワードとしては、業種・職種、規模や安定性、地域(エリア)etc…が挙げられるだろう。その際、『自分の人生を自分のために生きる(働く)』という視点を忘れないで欲しい。
また、どう生きるかを考える際には、内省するだけじゃなく、社会・経済環境や自身の周囲の変化に興味を持ち、生きた情報を得るコトが大切だと思う。
「情報源がどこなのか?」も重要なポイントだ。たぶん、学校の先生・父兄他、周囲の大人たちがみんなのコトを心配していろいろなアドバイスをしてくれると思う。親切なアドバイスには感謝の気持ちを持って対応して欲しいと思うが、それをどう判断するかの“決定者は自分自身”であることを忘れないように…!!
先日、大学主催の就活父兄相談会で、あるお父さんから「私は商社勤めで苦労してきました。娘には、苦労させたくない。大きな工場の事務の仕事は無いでしょうか?」という相談があった。私なりの答えは返したつもりだが、現実に疎い大人が少なくないことも知っておく必要がある。

ここで、私が担当する大学の授業で、「日本的雇用慣行が崩壊しつつある中、どんな働き方・生き方をしたいか?」と問うた際の学生からのレポート2例を紹介したい。

<例1>
私は安定した会社に就業し生活していきたいと考えます。授業で、大きいと安定はイコールで無いと学びましたが、親からできるだけ大きくて安定した会社に入って欲しいと育てられ、また地域のコミュニティーなどでも、大きくて安定した会社に入った子は優秀であるとよく耳にします。
大きな会社に入った方が、社会的評価は高いと考えます。そのため、私は不安や心配の少ない上記の様な会社を希望し、生きていきたいと考えます。


<例2>
“雇用の流動化”が進むということは、私たち労働者にとって自由が増えるとともに、より一層自身の選択の重要性が高まると思います。そのため、私は自分の好きなことを仕事にしたいという思いがより強くなりました。
これからの時代、大手企業に就職すれば安泰だという時代でも無くなってくると思うので、“どこの会社に入りたい”ということよりも、何を仕事にするのかということをもっと良く考えた方が良いのかなと思いました。


同じ授業を受けても、感じ方・捉え方は人それぞれ。どんな選択をしてもよいけれど、「自分で決める!」というスタンスを忘れないで欲しい。


■ 自分のために働く〜静岡で働くということ
本日のテーマが「学生の地元就業・定着支援の方策を探る」なので、地域というキーワードに絞って話をしたい。
就職相談の現場、および実際の採用試験の場面で「静岡が大好き!!」「静岡に恩返ししたい!!」という学生は少なくない。私はちょっぴり意地悪なので、ついつい「ほかの地域で生活したことないのに、何故、静岡が好きだってわかるの?」「恩返し、10年早いんじゃない?」などと質問してしまうことがある。
実は、親元で暮らしたかったり、地元の友人と離れたくないという理由であることは少なくない(それはそれで良いけれど、面接官にとって重要な話ではない)。
職業人生のスタートを切るにあたって、第一に「自分のために働く!」「自分で決める(親に忖度しない)!」を意識して欲しい。チャレンジしたい仕事があるんだったら、都会に出てみるのも良いし、もちろん静岡で働くんでもOKだ。ただし、“静岡(地元)で働くことを目的化”して欲しくない。
また、支援する側は、地元就業・定着支援に際し“若者の側に立った視点”で実施することが大切だ。
街や会社の付加価値を上げるには、そこに住まう人の“数”よりも“質”が重要なんだと思う。ひとりひとりが“自分のために働けば、街や会社の付加価値は上がっていく”。「いきいき働きたい!」「生活を楽しもう!」という人が増えれば、街は自然と元気になるハズだ。一度、地元を出た人が「戻ってきたい!」「地元に恩返ししたい!!」と思った際の雇用の受け皿づくりだって出来るだろう。

そういった意味で、静岡で活き活き暮らしたい若者が増えるのは大歓迎だ!!


最後に…、一度きりの人生を「こんなハズじゃなかった」としないためにも、自ら答えを出して欲しい。

就職相談から見える学生のマインド




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